---上板南口落語塾で講師をやられている事が、萬窓(まんそう)さんを知るきっかけだったのですが、どのような経緯で開かれたのでしょう?
上板橋に飲み屋さんがあり、そのお客さん相手に、落語会をやっていたんですね。
その時にお客さんの中から、
「結婚式にスピーチを頼まれると上手くしゃべれないから、
教えてくれないかなあ?」
と言う人がいて、落語好きな人もいたので、飲み屋のマスターとお話しして、開設したんです。
飲み屋のマスターというのは、学習塾も開いていたんですね。
教室があるものだから、黒板もありますよね?
そういうところから始まったんです。本当に塾です。笑
そのうちに人数も増えてきて、今は、区の施設を借りてやっています。
今年で三年目になりますね。老若男女、楽しくやっていますね。
---萬窓さんが落語の世界に入られた、そのきっかけというのは?
私は、生まれは東京で埼玉育ちなんです。
埼玉会館っていうのがありまして、そこで落語会があったんですよ。
高校の時に、落語好きの同級生がいましてね。誘われて行ったんです。
しばらくしたら、同じ友人からまた誘われまして、今度は上野の鈴本演芸場に連れていかれた。
そんなこんなしているうちに、段々自分も落語に興味を持ち始めて、自分1人で行くようになったんですね。
チケットぴあの、隅っこの方に、小さく演芸なんて欄があって、それをたよりに、二月にいっぺんとか、ちょこちょこと行くようになりました。
---そうやってのめりこまれたんですねえ。
それで、大学では落語研究会に入会しました。
いわゆるオチケンですね。
で、結局3年4年になって単位が足りずに、留年が確定してしまったんです。
だったら、落語の世界に入っちゃおうか。とね。
それが23歳です。
六代目三遊亭円窓(えんそう)に弟子入りしました。
---円窓師匠に弟子入りするそのきっかけとは何だったのでしょう?
寄席とか色々なところに言って、自分なりに考えるわけですよ。
色々と候補はあったのですが、円窓という人がいいなと思ったんですよね。
まじめそうでね。ただ、面白いものでね、この世界に入ってみると、お客として見ている時と、楽屋に入った時というのは、意外にきっちりと見える人の方が、話をしてみるとそうでない場合もあるんです。
---では実際の円窓師匠は・・・?
いや、それが、まったくイメージと一緒だったんです。
珍しい方です。お客さんからのイメージと実際のイメージのぴったんこな人は。
---萬窓さんは、真打という階級だという事ですが、真打とは?
真打というのは、トリをとる事が出来る。弟子をとる事が出来る。
大体、その2つが大きな特権なんです。
それで、師匠と言われるんですね。
それまでは、窓樹(そうじゅ)さんと言われていたのが、世間からも、楽屋の中でも、前座さんからも萬窓師匠と呼ばれるようになるんです。
---では真打になれるというのは、すごく嬉しいものなのでしょうね。
真打の前に「二つ目」という位があるんですけれども、真打になった時よりも、二つ目になった時の方が嬉しいんですよ。
前座と言うのは、修行期間で、師匠の家の掃除から、何まで、雑用ですよね。
それから開放されるのが、二つ目なんですね。
そこで、はじめてギャラもとれますしね。
---なかなか大変な修行時代だったのでは?
ただ、よく出来たもので、師匠や先輩に三度三度のご飯を食べさせてもらえるんです。
当時は、安いアパートですから、風呂もなし。トイレも共同のような。
大山に住んでいたのですが、家賃は2万円もしなかった。
そのくらいだったら、何とかやっていけるんですよね。
逆に前座の間っていうのは、贅沢さえしなければ、暮らしていくのには困らないんです。
師匠が面倒をみてくれますからね。
---真打になられて、変化というのはありましたか?
やっぱり、責任感というものがありますね。
寄席でもトリですから。
終わりよければ全て良しで、トリがずっこけちゃったら、情けないですからね。
色々な意味で、芸に対して責任をとらなくてはいけないなと。
お客さんに、入場料を払った分ぐらいは笑ってもらって、喜んでもらって。
という事は考えます。
---板橋住まわれた印象というのは?
あたしの師匠が豊島区の千早に住んでいるんです。
前座の頃、通い弟子でしたから、やはり近くなくてはいけない。
で、、家賃の事を考えると、有楽町沿線よりも東上線沿線の方が安かったんですよ。
それともう一つは、大学が東洋大学だったので、朝霞と白山に校舎がある関係で、東上線から三田線というのは結構使っていたんです。
学生の時分、友達も何人か板橋に下宿していて、遊びに行ったりして、この沿線は詳しかったんですね。そんなきっかけで板橋に住んだんです。
---板橋で好きな場所などは?
それは、城北公園ですねえ。
僕らは、ネタを覚える時に、歩きながらぶつぶつとやると覚えられやすいんですよ。
城北公園っていうのは、一周をゆっくりまわると30分くらいで、噺を覚えるのに丁度いいんです。
あまり仕草はいれないでやりますね。不審者になってしまいますから。笑
小声でぶつぶつやりながら歩いています。健康にもいいですしね。
---萬窓さんのこれからの活動や意気込みをお願いします!
昨年から、交通安全落語というものをしています。
区役所の土木課交通係の人から依頼があったんです。
板橋区には、一昨年から、自転車安全利用条例っていう条例が出来たんですって。
それにちなんで、安全に自転車に乗りましょうというような落語はありませんか?
というオファーがあったんです。
ちょっと古典落語にはないな。と言いましたら、じゃあいっそのこと創作しませんか?となったんですね。
僕は、何にも知識がなかったので、色々と資料を送ってもらって、短い12、3分の噺を作ったんです。
その交通安全大会でやったら、結構評判が良くてね。
去年の区民文化特別賞というのもいただいたんですよ。その落語のおかげで。
タイトルは、「交通安全落語」。そのまんま。笑
---オチを聞いてもよろしいですか?笑
板橋区の区の花ってご存知ですか?ニリンソウでしょ?
それと自転車をひっかけてやったんですよ。
「どうして、そんなに自転車の安全に力を入れるのかねえ。
それは区の花がニリンソウだからだよ。」
ところが、この落語を聞いて、他の警察署の交通安全キャンペーンからも呼ばれるようになってしまいましてね。
「交通安全落語」のオチで、「ニリンソウ」では板橋区の方しかわかりませんから、他の地域で演るときはオチを変えています。
そのオチは実際お聴きになるまでお楽しみに。
今後は、創作落語なんかも世間のお役に立てるような事があればしていきたいですね。
もともと僕は、古典落語と呼ばれる江戸時代とか明治時代が背景になっている噺も好きでして、そういうものをなるべくものにしたいとも思っています。
板橋落語会のメンバーでもあるのですが、年三回大山の区立文化会館で開催しておりますので、もしお時間があったらお出かけください。
---ありがとうございました!
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